フォンテーヌ音楽に隠された西洋音楽史のエッセンス

ピアノを弾くサンドローネ ざつだん

突然ですが原神の音楽は最高です。異論のある旅人はほとんどいないんじゃないでしょうか。
魅力の一つはやはり、音楽を聴くだけで「旅」の気分に浸れること。どの国でもオーケストラで奏でられる音楽を基調としつつ、使われている楽器やメロディには必ず「その国らしさ」が隠されています。稲妻に到着した時、誰もが「めっちゃ日本っぽい!!」と感じたはずです。

稲妻は日本っぽい、璃月は中国っぽい、というふうにざっくり考えた場合、フォンテーヌは「ヨーロッパっぽい」と言うべきでしょうか。モンドもヨーロッパっぽいですが、あちらのヨーロッパっぽさはRPGの定番である「中世の」ヨーロッパっぽさ。フォンテーヌには私たちがヨーロッパと聞いた時になんとなく想像するような、近世以降のそれの雰囲気があると思います。

そしてフォンテーヌの音楽には、西洋音楽史を勉強したことがある人なら思わずニヤッとしてしまうような、近世以降のヨーロッパのエッセンスがたくさん隠されているのです。

野外のBGMがめっちゃバッハ

フォンテーヌの野外で流れている「かつての花言葉」というBGMには、おそらくはっきりとした「元ネタ」の曲があります。
J. S. バッハの名曲「無伴奏チェロ組曲第一番・プレリュード」です。
タイトルの通り、チェロが伴奏をつけずに一人だけで美しいメロディとハーモニーを奏でる作品です。今でも人気の高い曲ですので、ぜひ一度聞いてみてください。きっと「これフォンテーヌの外で流れてるやつじゃん!」ってなります。

かつての花言葉
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第一番よりプレリュード

フォンテーヌ音楽で使われている古楽器

稲妻の音楽で琴や尺八や和太鼓が使われているように、フォンテーヌの音楽でもヨーロッパの伝統的・歴史的な楽器が多々使われています。
特に良い味を出しているのがチェンバロ、リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバなどの「古楽器」と呼ばれる楽器たちです。これらの楽器はバッハやそれ以前の古い時代では盛んに使われていたものの、19世紀には廃れて使われなくなり、20世紀後半に「昔の曲を昔の楽器で演奏してみたいぜ!」という復興運動があり復活したものです。

メリュジーヌのアイベルやエルファネがガイドをしてくれる巡水船では、BGMでたぶんリュートが使われています(音でしか確認してないのでたぶんです)。
リュートは「ボディがまん丸でネックがひん曲がったギター」みたいな見た目の弦楽器です。ポロンポロンという柔らかくて優しい音がステキですね。

水の色を巡りて
J. ダウランド:最も神聖なるエリザベス女王のガリアード

ちなみにフォンテーヌのメインテーマの公式演奏動画では、1:19あたりからチェンバロがピアノと同じメロディを奏でており、1:34あたりからヴィオラ・ダ・ガンバがマンドリンと同じメロディを奏でています。
これらの古楽器は前述の通り20世紀後半の復興運動で復活したもので、最近では一般の愛好家も増え、音楽大学などでも専門の学科が設けられるようになっています。興味のある方はぜひ調べてみてください。

パレ・メルモニアの音楽がめっちゃフーガ

パレ・メルモニアで流れている、なんか厳めしい雰囲気のBGMを思い出してください。この「諸律のハルモニア」というBGMでは、最初にヴァイオリンがメロディを弾き、続いてもう一つのヴァイオリンが似たようなメロディを重ねていきます。これはフーガと呼ばれる類の音楽で、私たちが普段親しんでいる音楽とはちょっと造りが異なります。

私たちがよく聴く音楽は普通、メロディとそれを支えるハーモニーでできています。ギターで弾き語りをするなら、歌がメロディでギターがハーモニーですよね。
一方でフーガは、メロディの上にさらにメロディを重ねていき、複数のメロディが同時に鳴り響くことで、結果的に美しいハーモニーを生み出す、という仕組みになっています。
フーガではないですが、「かえるのうた」や「パッヘルベルのカノン」などの有名曲も、メロディを重ねていくという原理は同じです。フーガはあれをさらに複雑にしたやつです。

フーガはヨーロッパの音楽の中でも比較的古い時代によく作られていた音楽で、その代表的作曲家と言えばやはりバッハです。こちらを聴き比べてみてください。なんとなく似ている気がしませんか?

諸律のハルモニア
J. S. バッハ:フーガの技法よりコントラプンクトゥス4(10:16-)

フーガの聴きどころは「メロディやハーモニーの感覚的な美しさ」というより、複数のメロディが同時に鳴り響きながら、それらが論理的に絡み合い一つの曲として成立する「数学的な美しさ」と言えるでしょう。
数学オタクはよく「この数式は美しい」と言いますが、数式の意味を理解できない人にとっては「ただのゴチャゴチャした何か」でしかないですよね。フーガもそれと似ていて、「通向け」の音楽と言ってしまっていいと思います。

話を原神に戻しますが、サンドローネはイベントストーリーで「音楽と数学は通じている。音楽理論はすなわち数学理論よ」と言っています。
かつてヨーロッパでは、音楽は「聴いて楽しむもの」ではなく、「数学に通じる、宇宙の調和を表す学問」と考えられていたそうです(詳しくは「ムジカ・ムンダーナ」で調べてみてください)。
サンドローネの言葉には、じつはヨーロッパで古くから受け継がれてきた伝統的な音楽観が表れているのです。

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